南の果て、野菜不足と戦う毎日。 羊のバーベキューに舌鼓を打ちながらも ふとした拍子に思い出すケンタッキーフライドチキンの味…。ああ、望郷。
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ひとつの終わり
2月11日

3月末、パタゴニアでひとつのホテルが、その40年の歴史に幕を降ろします。大手会社に買収され、大幅な改装、改築を施されて近代的なホテルとして生まれ変わることになります。
そのホテルの名前は『カボ・デ・オルノス』。抜群の立地と60名の従業員の行き届いたサービスで知られた州都プンタアレナスのホテルです。

先日、私がそのプンタアレナスから車で3時間のプエルトナタレスに戻る長距離バスでの話。

隣の席で一人の御婦人が静かに座っていました。仮にお名前をJさんとしましょう。Jさん、なんだか時々すすり泣いていらっしゃるご様子。さすがの私でも3時間寝た振りをするのは至難の業。
面倒だな・・・と思いながらも話しかけてみました。

Jさんは24年間、カボ・デ・オルノスで掃除人(ハウス・キーパー)として働いていて、今回のホテル閉鎖を機に現役を離れるとのこと。お歳は64歳。新オーナーの元で再雇用される従業員もあるが、60歳を過ぎていてはその対象外。今回は3日間のお休みを取って、プエルトナタレスに住む娘さん夫婦の元へ骨休め。
あと1ヵ月半だし、このまま辞めてしまおうかとも思ったけど・・・と笑う横顔は淋しさを湛えていました。

でも・・・と彼女が語り始めたのは、そのホテルの歴史の中で最も華やかだった頃の話。

『お客さんが入りきらなくて、ロビーにソファーを運んで休んで頂 いた事もあったのよ。』

 と笑うJさんの顔はさっきと打って変わって誇らしげ。

『ほとんど骨組みだけを残して、全て壊されるらしいけど、私は彼 の最後の日までピカピカに磨いてあげるつもり』

 と涙声で語った後に

『主人が亡くなってからは、もうほとんど自宅とホテルの往復だ  け。ホテルにいる時間の方が長かったんじゃないかしら』

『でも、だめねえ・・・人間もホテルも歳を取ると・・・』

とつぶやく彼女を、茶化せるほど私は擦れてもおらず、綺麗な言葉で励ませるほど人生経験を積んでいるわけでもなく、ただ黙って聞いているしかなかったのです。

そんな私に、バスがプエルトナタレスに着いて席を離れる際に一言、『どうもありがとう』って、笑ってホッペにキスした彼女。

お礼言われるようなこと何もしてないのに・・・。
何か気の利いた言葉を掛けなきゃいけないのは私の方だったのに・・・。出てきた言葉は、『どういたしまして』。
(俺はアホか?!)



今日は彼女がプンタアレナスに帰る予定の日。『彼』との残り少ない日々を過ごすために。
見送りに行こうかどうかひとしきり迷ったが、未だに彼女に掛ける適当な言葉が見つからない。

朝からグズつき気味だった空は、夕方から冷たい雨に変わった。

『あの人はカサを持っていただろうか?』

 妙な事が気に掛かる。
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