南の果て、野菜不足と戦う毎日。 羊のバーベキューに舌鼓を打ちながらも ふとした拍子に思い出すケンタッキーフライドチキンの味…。ああ、望郷。
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泣いていたんだよね?
今わかったよ。
あの日、君は泣いていたんだよね?

あの日・・・。

彼と私が知り合ったのは、1年以上前の12月。
私が初めてパイネ国立公園のツアーに参加して、メチャクチャ感動した
時にガイドを務めてた青年で、歳は私の1つ上。
生まれも育ちもパタゴニア、マゼラン州の根っからのアウトドア派。
トレッキングもフィッシングも、私なんかより遥かに上手で、
その日、初めてツアーに参加した私に、お客さんへのガイドのコツ、
公園内の危険箇所、時間配分の仕方などなど、一から私に教えてくれた人でした。

彼のパイネガイドは板についており、他のお客さんの評判も上々。
私のガイドは、すっかりこの人流です。もちろん、さも自分の知識のように話すのですが・・。

今年の11月下旬、私が日本人のお客様のガイドを引き受けて乗り合わせたツアーのガイドは偶然にも彼。そう、それは偶然にも私が彼のガイド姿を見た最後の【あの日】。

彼と私は、お客さんにガイドするタイミングが全く同じ。話す冗談も、お客さんに話す注意事項も殆ど同じ。当然ですよね、先生と生徒だもん。

ガイドは大体お客様と別れて、別の場所で昼食を摂るのですが、その日、なぜか彼は他人がいる所を避けて、1人で湖の河口の方へ行って食べ始めました。運転手や私と一緒に食べればいいのにと思いながら、立ち上がった私を、運転手のオヤジが
『おい!ちょっと食堂で水貰ってきてくれや』
と呼びとめました。有無を言わせぬ命令調で・・・。
今思えば・・・あいつ、知ってやがったな。

食事も終わり、お客さんが出てくるまで、あと15分。
私は彼のいる河口の方へ歩いていき、彼の背中に語りかけました。

『ねぇ~、チョコレート食べる~?』

彼は返事もせずに、左手を出して受け取りました。こっちを振り向きもせずに。私が横の草むらに座っても、無言・・・。

『ひょおっとして、私が彼のガイドを真似したから怒ったのかな?』

などと考えていた私に、

『なんかさぁ・・・今日のパイネさ、霞んでるよな? いつもはもっと 綺麗だったよな?』

私は彼が喋ってくれたのでホッとして、

『今日こんなにいい天気じゃん。いい写真がとれるよ、今日は。』

彼、やにわに立ち上がり、

『さぁ!お客さん出てくるぞ!バスに戻れよ。俺もそこの冷たい水で顔 洗ったらすぐ行くから。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後、私がプエルトナタレスに戻ると、彼は、既にそこにはいませんでした。

彼はサンチアゴの女性と結婚して、あちらで暮らし始めたそうです。
どんな仕事をしているのか・・・。好きになった女性のために、大好きだけど不安定なガイドの仕事を辞めて、慣れ親しんだパイネを後にして都会へ出て行った彼。携帯電話も繋がらなくなって、もう彼とは連絡の取りようもありません。

初めて彼と会った時に、もらった写真。プエルトナタレスからパイネの鋭鋒を望む写真。その裏には彼の走り書きが。

『дЩ★и@ф!・・・・』

字が汚くて読めません・・・。

本日12月28日。ナタレス地方、晴れ。気温26℃。
彼の写真と同じように、パイネの鋭鋒がよく見えます。
その景色を見ながら、私は彼に語りかけます。もう、届かないけれど。

『あの日、君は少し泣いていたんだね。チョコどころじゃなかったんだ よね・・・。ごめん・・・それから、ありがと・・・。』
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